野生のハシビロコウに会うという、ウガンダにおける最大のミッションを初日で無事にクリアした我が家。 マバンバ湿地での天候不良やトラブルを考慮して設けていた「予備日」が、丸ごと空くことになりました。
プロジェクトマネジメントにおいて、バッファ(余裕)の時間は無駄な空き時間ではなく、新たな価値を生み出すためのボーナスタイムです。ウガンダ2日目は、図鑑で見た動物たちに物理的に触れる「UWEC」での特別プログラムと、ブガンダ王国の歴史に深く入り込む「カスビ王墓」への文化フィールドワークへと出発しました。
予定調和が通じない? UWEC「Behind the scenes」ツアーの洗礼
午前中は、エンテベにあるUWECでの特別プログラムです。
UWEC(ウガンダ野生動物教育センター)は、かつてのエンテベ動物園を前身とし、現在は密猟や怪我で保護された野生動物のリハビリテーションを行う重要な教育・保護施設です。 今回我が家が事前手配した「Behind the scenes(裏側体験)」ツアーは、一般の立ち入り禁止エリアに入り、飼育員と共に動物の生態を間近で見学できる、非常に教育価値の高いプログラムです。
しかし、現場に到着しても待てど暮らせど担当の飼育員さんが現れません。 「……本当に今日予約できてるの?」と不安げな息子。次の予定の時間が頭をよぎり、思わず時計を何度も確認してしまう私。結局、30分遅れでようやく担当者が「やあ、待たせたね!」と朗らかに登場しました。
日本の「定刻通り」が世界基準ではないこと。これもまた、現場でしか学べない異文化の一次情報です。「ウガンダは少し時間にルーズなのかもね」と笑い合いながら、ツアーがスタートしました。



図鑑の知識が立体化する。保護鳥「Sushi」との対話
30分遅れで始まったツアーですが、内容は待った甲斐がある圧倒的な体験の連続でした。 通常は入れないライオンのケージの裏側に回り込み、サイの分厚い皮膚と角に直接触れる。図鑑のページ越しでは絶対に分からない「岩のような硬さと温かさ」に、息子は目を丸くしていました。
そしてハイライトは、保護されたハシビロコウ「Sushi(スシ)」のケージへの潜入です。
本来、ハシビロコウは気性が荒く強力なクチバシを持つため、日本の動物園では絶対に同じ檻の中には入れません。しかし、幼い頃から人に育てられ、高度に人馴れしたSushiだからこそ実現した奇跡の対面です。


あの鋭く恐ろしい眼差しで見つめられながらも、そっと頭を撫でさせてもらう緊張感。硬い羽の感触は、今でも親子の手にしっかりと残っています。 その後もキリンに手から直接エサをやったり、日本では見られないシタツンガ(沼地に生息するレイヨウ)を観察したりと、生態系への理解を深めて大満足のツアーは終了しました。
カンパラのローカルフード「ルウォンボ(Luwombo)」で食の探求
午後の歴史探求に向けてカンパラへ移動し、昼食はガイドさんにお願いして地元のお店へ連れて行ってもらいました。狙いはウガンダの伝統料理「ルウォンボ」です。
ルウォンボは、鶏肉や牛肉、野菜などをバナナの葉で包み、じっくりと蒸し焼きにしたウガンダのごちそう。19世紀後半にブガンダ王国の王室料理として考案されたと言われています。
目の前に運ばれてきた、バナナの葉に包まれた謎の物体。見慣れない外観に最初は戸惑っていた息子ですが、一口食べると表情が一変しました。バナナの葉が香りを閉じ込め、素材の旨味が凝縮されたお肉はスプーンで崩れるほどホロホロ。
見知らぬ土地の「食わず嫌い」を克服し、現地の文化を胃袋で受け止める、素晴らしい食育体験になりました。


世界遺産「カスビ王墓」:日本の価値観が通用しない歴史のリアル
美味しいローカルフードでお腹を満たした後は、この旅のもう一つのハイライトである世界遺産「カスビ王墓」へ。ウガンダが持つ泥臭くも深い歴史に触れる時間です。
カスビ王墓は、ウガンダ最大の民族であるガンダ族の王国(ブガンダ王国)の歴代国王4人が眠る神聖な場所であり、2001年にユネスコ世界文化遺産に登録されました。 巨大なドーム型の茅葺き建築は、木材、葦、土などの自然素材のみで作られた伝統建築の傑作です。

ここが単なる「遺跡」ではない理由は、現在もウガンダ王の家族が実際に住み続け、信仰と儀式の中心として機能している点にあります。
入り口の守衛は特定の部族の者が代々務めるという厳しい掟があり、王室は各部族から妻を一人ずつ取るという一夫多妻制が前提となっています。「部族」や「一夫多妻」という、日本の道徳観念や常識の枠には決して収まらない世界の多様性を、息子は静かに、そして真剣に受け止めていました。
車窓からの学び:ケニアとウガンダで異なる「部族」のあり方
エンテベへの帰り道、渋滞の車中でドライバーが「自分はXXの部族でね」と誇らしげに自己紹介をしてくれました。
息子に「部族ってなに?」と聞かれ、「昔から同じ地域に住んでいて、特別な言葉や文化を共有している、大きなグループのようなものだよ」と説明しました。
興味深かったのは、親である私自身の気づきです。 数日前に訪れたケニアでは、急速な経済発展に伴って部族の枠組みが少しずつ弱まり、都市部では部族ごとの言語よりも公用語であるスワヒリ語が広く使われているのを感じました。しかし、ここウガンダでは、人々が「自分は何部族であるか」というルーツを別の次元で深く大切にし、繋がり合っている空気を感じます。 国境を一つ越えるだけで、人々のアイデンティティの在り方が全く異なる。これもまた、現場に行かなければ決して肌で感じることはできなかった一次情報です。
コーヒーの香りとマトンカレー。ウガンダ最後の夜
道中、マウンテンゴリラの保護活動を支援している「Gorilla Conservation Coffee」のカフェに立ち寄りました。


現地の美味しいコーヒーで大人の疲労をリセットしつつ、パッケージがお洒落なコーヒー豆をお土産に購入。ウガンダの豊かな大地の恵みを感じる一杯でした。
ホテルに戻っての夕食では、ウガンダ最後の夜ということで様々な料理を頼みましたが、息子が意外にも「マトンカレー」を大いに気に入りました。羊肉特有の風味に顔をしかめるかと思いきや、パクパクと平らげていく様子に驚かされます。 ここでもまた一つ食わず嫌いがなくなり、逞しさを増していく背中を頼もしく感じました。
まとめ:野生の生態系と人間のルーツが交差した1日
動物園の裏側で野生動物の息遣い(理科)に直接触れ、午後は王国の歴史と人々の部族的な繋がり(社会科)について深く考察する。 まさに、図鑑や教科書の知識が現実世界で立体化する「エデュケーショナル・トラベル」の真骨頂と言える1日でした。
明日はとうとう、アフリカ探検の最終日。帰国の途に就く長距離移動に備え、親子でしっかりと荷物をパッキングして就寝しました。 知的好奇心をたっぷり満たした息子は、この大国から最後に何を学び取るのでしょうか。長丁場のプロジェクトも、いよいよフィナーレへ向かいます。
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1m超の蟻塚に登ったエンテベ植物園の散歩から、文明のインフラにホッとしたエミレーツの機内まで。大自然の生と死、途上国の不便さ、先進国のシステムという極端なコントラストをサバイブした10歳の息子が、帰国路で漏らした一生モノの気付きと、最高の「体験投資」のROI(投資対効果)を語ります。

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